目次
はじめに:給料を上げられない建設会社が淘汰される時代
「従業員に十分な給料を払ってやりたいが、会社の利益を考えると難しい…」
多くの建設会社の経営者が、このようなジレンマに頭を悩ませているのではないでしょうか。
しかし、もはや「給料を上げられない」という悩みは、単なる経営課題の一つではありません。
会社の存続そのものを揺るがす、極めて深刻な問題となっています。
2024年問題から1年、建設業界の「今」
2024年4月から建設業にも適用された「時間外労働の上限規制」、いわゆる「2024年問題」から1年以上が経過しました。 この規制は、長時間労働が常態化していた建設業界に大きな変化を強いるものでした。
残業で工期をカバーすることが難しくなり、生産性の低い会社は利益を圧迫されています。
一方で、労働環境の改善は待ったなしの状況です。
国土交通省の調査によると、建設業の年間実労働時間は全産業の平均より長く、休日数も少ない状況が続いています。
このような環境では、若手人材が定着しないのも無理はありません。
帝国データバンクの2025年10月の調査では、正社員の人手不足を感じている建設業の割合は70.2%に達し、全業種で最も高くなっています。 人手不足を理由に倒産する企業も、2025年上半期で過去最多を記録するなど、事態は深刻化の一途をたどっています。
なぜ「給料アップ」が経営の最重要課題なのか?
このような状況下で、なぜ「給料アップ」が最重要なのでしょうか。
理由は明確です。
給料を上げられない会社から、人は確実に去っていくからです。
有効求人倍率が依然として高い水準で推移する中、労働者はより良い条件を求めて転職するのが当たり前の時代になりました。
特に、スキルを持つ若手や中堅の技術者は、好待遇を提示する企業へ流出していきます。
人材を失うことは、単に人手が減るだけではありません。
技術の継承が途絶え、受注できる工事の規模や質が低下し、結果として会社の競争力そのものが失われていくことを意味します。
つまり、従業員の給料を上げることは、福利厚生ではなく、未来の利益を生み出すための「投資」なのです。
本記事では、この厳しい現実を直視し、「給料を上げられない」という呪縛から抜け出すための具体的なステップを、利益率改善の観点から徹底的に解説します。
なぜ給料を上げられない?建設業が抱える根深い3つの原因
多くの建設会社が賃上げに踏み切れない背景には、業界特有の構造的な問題が存在します。
問題の根本を理解することが、解決への第一歩です。
原因1:慢性的な低利益率体質
建設業は、他産業と比較して利益率が低い傾向にあります。 中小企業庁の調査によると、建設業の平均粗利率は約23%ですが、これはあくまで平均値であり、多くの企業がこれを下回っているのが実情です。
利益率が低い主な要因は以下の通りです。
- 重層下請け構造: 元請けから二次、三次下請けへと仕事が流れる過程で中間マージンが抜かれ、末端の企業ほど利益が圧迫されます。
- 過度な価格競争: 公共工事の入札や民間工事の相見積もりにおいて、受注を優先するあまり、採算度外視の価格で仕事を受けてしまうケースが後を絶ちません。
- 資材費・労務費の高騰: 近年の世界的なインフレや人手不足により、資材や外注費が高騰しています。 このコスト上昇分を、受注価格に十分に転嫁できていない企業が少なくありません。
売上高はあっても利益が残らない。
この「多忙貧乏」の状態が、賃上げの原資を奪っています。
原因2:どんぶり勘定の原価管理
「この工事で、最終的にいくら利益が出たのか?」
この問いに、即座に、かつ正確に答えられるでしょうか。
多くの企業では、工事ごとの原価管理が曖昧、いわゆる「どんぶり勘定」になっているケースが見受けられます。
建設業における原価管理とは?
工事ごとにかかる「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つのコストを正確に把握し、予算内に収まるようにコントロールする活動のことです。 利益を確保するための生命線とも言えます。
原価管理が徹底されていないと、以下のような問題が発生します。
- 赤字工事の発生: 実行予算の精度が低く、工事の途中で原価が予算をオーバーしても気づけず、完成してみたら赤字だったという事態を招きます。
- 適切な見積もりができない: 過去の工事データが蓄積されていないため、勘と経験に頼った見積もりになりがちです。結果として、安すぎる価格で受注してしまったり、高すぎて失注したりします。
- コスト削減のポイントが不明確: どの工事の、どの費目に無駄があるのかを特定できないため、具体的な改善策を打つことができません。
正確な原価管理なくして、利益率の改善はあり得ません。
原因3:深刻化する人手不足と採用コストの高騰
前述の通り、建設業界の人手不足は極めて深刻です。
国土交通省のデータによれば、建設業就業者はピーク時から大幅に減少し、特に若年層の割合が著しく低いのが特徴です。 2025年には約90万人の労働力が不足するとも予測されています。
この人手不足が、経営を二重に圧迫します。
- 外注費の増加: 自社の職人が不足しているため、協力会社への外注に頼らざるを得ません。しかし、協力会社も人手不足であるため、外注費は年々高騰しています。
- 採用・教育コストの増加: 数少ない求職者を獲得するため、採用広告費や人材紹介会社への手数料が増加します。また、未経験者を採用した場合は、一人前になるまでの教育コストと時間も必要です。
クラフトバンク株式会社の調査では、中小建設業の68%が「人手不足で仕事を断ることがある」と回答しており、機会損失も大きな問題となっています。
まさに、人手不足が利益を食いつぶす悪循環に陥っているのです。
利益率改善へのロードマップ:明日から始める具体的5ステップ
では、どうすればこの負のスパイラルから脱却し、利益を出せる強い会社へと変革できるのでしょうか。
ここでは、明日からでも着手できる5つの具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:【脱・どんぶり勘定】工事原価の徹底的な「見える化」
利益改善の第一歩は、自社のコスト構造を正確に把握することです。
まずは、工事ごとの原価を「見える化」する仕組みを構築しましょう。
具体的なアクション:
- 精度の高い実行予算の作成: 工事を受注したら、必ず実行予算を作成します。 過去の類似工事のデータを参考に、材料費、労務費、外注費、経費を詳細に見積もります。
- 原価管理システムの導入: エクセルでの管理には限界があります。安価なクラウド型の原価管理システムも増えているため、導入を検討しましょう。 システムを使えば、日々の原価発生状況をリアルタイムで把握し、予算と実績の差異をすぐに確認できます。
- 工事台帳の徹底: システム上の工事台帳に、発生した原価を費目ごとに正確に入力するルールを徹底します。 これにより、工事の進捗に合わせた原価管理が可能になります。
- 月次の原価会議の実施: 毎月、進行中の工事の原価状況を確認する会議を開きましょう。予算を超過しそうな工事があれば、その場で原因を分析し、対策を講じます。
「見える化」によって、どこに無駄があり、どこを改善すれば利益が出るのかが明確になります。
ステップ2:【生産性革命】建設DXで無駄をなくし、時間を生み出す
人手不足と長時間労働の是正という課題を解決する鍵は、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)にあります。 デジタル技術を活用し、業務プロセスそのものを変革することで、生産性を飛躍的に向上させることが可能です。
建設DXとは?
IoTやAIなどのデジタル技術を活用して、業務プロセスや働き方、ひいてはビジネスモデルそのものを変革することです。 単なるツールの導入ではなく、業務のあり方を見直すことが重要です。
具体的な導入例と効果:
| 導入ツール・技術 | 解決できる課題 | 導入効果 |
|---|---|---|
| 情報共有ツール (ビジネスチャット、施工管理アプリ) | 電話・FAXでの連絡ミス、現場と事務所の情報格差、書類の紛失 | リアルタイムでの情報共有、移動時間の削減、ペーパーレス化による事務作業の効率化 |
| 勤怠管理システム | タイムカードの集計作業、労働時間の実態把握が困難 | 労働時間の正確な把握、給与計算の自動化、長時間労働の是正 |
| 図面管理・写真管理システム | 最新図面の確認漏れ、大量の写真整理の手間 | 図面の一元管理による手戻り防止、写真の自動整理・帳票作成の効率化 |
| BIM/CIM (3次元モデル) | 設計図の不整合、施工段階での手戻り | 施工前に干渉チェックが可能、関係者間の合意形成がスムーズに、手戻りや無駄を削減 |
| ドローン・ICT建機 | 測量や丁張り設置の手間、危険な場所での作業 | 測量時間の大幅な短縮、施工精度の向上、作業の省人化と安全性の確保 |
いきなり大規模なシステムを導入する必要はありません。
まずは、情報共有ツールや勤怠管理システムなど、導入しやすく効果を実感しやすいものから始めてみましょう。
成功事例では、業務効率化によって生まれた時間を、より付加価値の高い業務に振り分けることで、利益率を向上させています。
何から手をつければ良いか分からない場合は、専門家の力を借りるのも一つの手です。
例えば、建設業界のDX支援で知られるブラニューのような企業は、中小建設会社の課題に合わせたソリューションを提供しています。
最新の情報はブラニューの公式Xアカウントでも発信されているので、参考にしてみると良いでしょう。
ステップ3:【受注戦略の見直し】「安売り」から「価値提供」への転換
利益を確保するためには、安易な価格競争から脱却し、適正な価格で受注することが不可欠です。 そのためには、経営指標を「売上高」から「利益率(粗利率)」へと転換する意識改革が求められます。
具体的なアクション:
- 自社の強みを明確にする: 「技術力」「品質」「工期遵守」「特定の工法に特化」など、他社にはない自社の強みを洗い出し、言語化します。
- ターゲット顧客を絞る: 自社の強みを最も評価してくれる顧客は誰かを見極め、営業活動を集中させます。不得意な分野や、利益の出にくい顧客からの受注は勇気をもって断る判断も必要です。
- 付加価値を提案する: 単に言われたものを作るだけでなく、顧客の課題を解決するための提案(VE提案など)を積極的に行いましょう。「この会社に頼めば、もっと良くなる」と思わせることが、価格競争から抜け出す鍵です。
- 価格交渉の準備を徹底する: 見積もりを提出する際は、原価の内訳を明確にし、価格の妥当性を論理的に説明できるように準備します。資材高騰などの外部要因についても、客観的なデータを示して価格転嫁の交渉を行いましょう。
「安さ」で選ばれるのではなく、「価値」で選ばれる会社を目指すことが、持続的な利益確保につながります。
ステップ4:【多能工化と内製化】外注費をコントロールし利益を確保する
高騰する外注費は、利益を圧迫する大きな要因です。
社員のスキルアップを図り、これまで外注していた作業の一部を内製化することで、コスト削減と利益率向上を目指します。
具体的なアクション:
- 社員のスキルマップ作成: まずは、社員一人ひとりが持つスキルや資格を「見える化」します。
- 多能工化の推進: 一人の社員が複数の工程や作業を担当できるよう、計画的なOJTや資格取得支援を行います。例えば、足場組立てもできる塗装職人、簡単な電気工事もできる大工など、複数のスキルを持つ人材は会社の貴重な戦力となります。
- 段階的な内製化: 全てを内製化するのは現実的ではありません。まずは、外注費の中でも割合が大きく、かつ自社で対応可能な業務から内製化に挑戦してみましょう。
- 協力会社との関係強化: 内製化を進める一方で、優良な協力会社とのパートナーシップは不可欠です。 安定した発注や適正な価格での取引を通じて、良好な関係を築き、いざという時に協力してもらえる体制を維持しましょう。
多能工化は、社員のモチベーションアップやキャリア形成にもつながり、人材定着の効果も期待できます。
ステップ5:【人材への投資】スキルアップが利益を生む好循環を作る
従業員の給料を上げるためには、従業員一人ひとりの生産性を高めることが不可欠です。
そして、生産性を高める最も確実な方法は、教育訓練への投資です。
具体的なアクション:
- 資格取得支援制度の拡充: 施工管理技士や技能士などの公的資格の取得を強力にバックアップします。受験費用や講習費用の補助、合格時の報奨金などを制度化しましょう。
- 社内勉強会・研修の定期開催: ベテラン社員が若手に技術を教える勉強会や、外部講師を招いた研修を定期的に実施します。新しい工法や技術、安全管理に関する知識を常にアップデートする機会を設けます。
- 人事評価制度の見直し: スキルの向上や資格の取得、生産性向上への貢献度などを、給与や賞与に明確に反映させる評価制度を構築します。「頑張れば報われる」という仕組みが、社員の成長意欲を引き出します。
教育への投資は、短期的にはコストがかかります。
しかし、長期的には社員のスキルアップが工事の品質向上や効率化につながり、会社の利益となって確実に返ってきます。
これこそが、賃上げと利益向上を両立させる好循環の始まりです。
利益を給料に還元する仕組みづくり
利益率改善の取り組みと並行して、その利益を従業員に適切に還元する仕組みを整えることが重要です。
給料アップはもちろんのこと、働きがいのある環境を提供することが、優秀な人材の確保・定着につながります。
賃上げだけではない!社員が定着する魅力的な制度とは
給与水準の向上は必須ですが、それだけで人材が定着するわけではありません。
特に若年層は、金銭的な報酬と同じくらい「働きやすさ」や「将来性」を重視します。
魅力的な制度の例:
- 休日制度の整備: 完全週休2日制の導入や、有給休暇の取得促進、記念日休暇などの特別休暇制度を設けます。国土交通省も週休2日制を推進しており、公共工事では工期設定などで配慮されるケースが増えています。
- 福利厚生の充実: 退職金制度(中小企業退職金共済など)、住宅手当、家族手当、資格手当などを充実させ、社員の生活をサポートします。
- キャリアパスの明示: 「見習い → 職長 → 現場代理人」といったキャリアアップの道筋を明確に示し、将来の目標を持って働ける環境を作ります。
- 透明性のある評価制度: 何を達成すれば評価され、昇給・昇進につながるのかを明確にします。上司との定期的な面談の機会を設け、成長をサポートする姿勢も重要です。
これらの取り組みは、企業の「新3K(給与が良い、休暇が取れる、希望が持てる)」を実現し、採用市場における大きなアピールポイントとなります。
国の支援策をフル活用する(賃上げ促進税制など)
国も企業の賃上げを後押しするため、様々な支援策を用意しています。
これらを活用しない手はありません。
賃上げ促進税制とは?
従業員の給与を前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(または所得税)から控除できる制度です。 2024年の改正で、中小企業向けの要件が緩和され、より使いやすくなっています。 控除しきれなかった分を5年間繰り越せる制度も導入されました。
この制度を活用すれば、賃上げによる人件費の増加負担を、税制面で軽減することができます。
他にも、生産性向上に資する設備投資への補助金(事業再構築補助金、ものづくり補助金など)や、従業員のスキルアップを支援する助成金(人材開発支援助成金など)もあります。
自社で活用できる制度がないか、商工会議所や税理士、社会保険労務士などの専門家に相談してみましょう。
成功事例に学ぶ:利益改善と賃上げを両立した企業の取り組み
実際に、業務改善によって生み出した利益を従業員に還元し、成長を続けている企業は数多く存在します。
ある地方の建設会社では、施工管理アプリを導入し、現場と事務所の情報共有を徹底しました。
これにより、移動時間や書類作成時間が大幅に削減され、残業時間が減少。
削減できたコストと、生産性向上によって受注件数を増やした利益を原資に、全社員の基本給を平均5%アップさせました。
結果として、社員のモチベーションが向上し、離職率が大幅に低下。
採用活動でも「働きやすい会社」として応募者が増えるという好循環が生まれています。
重要なのは、「利益が出たから給料を上げる」のではなく、「給料を上げるために利益を出す」という強い意志を経営者が持つことです。
まとめ:未来への投資こそが、会社を救う唯一の道
「給料を上げられない建設会社に未来はない」
これは、決して大げさな言葉ではありません。
人こそが最大の資本である建設業において、人材への投資を怠ることは、会社の未来を自ら手放すことに等しいのです。
利益率の改善は、決して簡単な道のりではありません。
しかし、本記事で紹介したステップは、どれも地道ながら確実な効果が期待できるものばかりです。
- 原価を「見える化」し、
- DXで生産性を高め、
- 価値で選ばれる受注戦略に転換し、
- 社員の多能工化を進め、
- 教育に投資する。
これらの取り組みによって生み出された利益を、従業員の給与や働きやすい環境づくりに還元していく。
この好循環を生み出すことこそが、人手不足という荒波を乗り越え、10年後、20年後も社会に必要とされ続ける企業となるための、唯一の道筋です。
まずは、自社の現状を正確に把握することから始めてみませんか。
未来への第一歩を踏み出すのは、今です。
最終更新日 2025年12月24日










